日本性差医学・医療学会

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理事長ご挨拶

 この度、秋下 雅弘先生(東京大学)の後任として学会員の皆様のご推挙を受け、第4代理事長に就任いたしました政策研究大学院大学の片井 みゆきです。今後も秋下先生には副理事長としてお支えをいただきます。性差医学・医療の普及と当学会のさらなる発展のために、学会役員・学会員の方々、当学会をご支援くださる皆様と共に手を携えて、精一杯、頑張る所存です。どうか皆様のお力添えを宜しくお願い申し上げます。

 性差医学・医療は、男女共通の病気を含む全疾患において「性差」と「ライフステージ(年代)」を考慮する医学・医療です。近年の性差医学の進歩によって、たとえ同じ病気であっても、症状、病気の誘因や進み方、最適な治療法や予防措置が、性別や年代によって異なる場合があることがわかってきました。よって、「性差医学・医療」は、生物学的性差・社会的性差とライフステージ(年代)に配慮し、一人ひとりに適した質の高い医療(個別化医療)を目指すものと言えます。

 当学会は、性差医学・医療に興味を持つ多領域・多職種の医療者、研究者、行政関係者、法律家、ジャーナリスト等々のさまざまな専門家が集まり、互いの知識や研究結果を共有し研鑽する学術団体で、国際性差医学会The International Society for Gender Medicine (IGM)にも加盟しています。当学会の歴史1を振り返りますと、2002年に前身となる「性差医療・医学研究会」が天野 惠子先生(循環器学)を代表世話人として設立され、2008年に「日本性差医学・医療学会」となり、初代理事長に鄭 忠和先生(循環器学)が就任されました。2012年からの10年間を第2代理事長である下川 宏明先生(循環器学)が精力的に率い、日本(仙台)でのIGM開催、学会員のリレーエッセイ連載、性差医学・医療認定制度開始に向けたクラウドファンディング等の指揮をお執りくださいました。2022年から秋下 雅弘先生(老年病学)が第3代理事長に就任され、性差医学・医療認定制度の実施、事務局移転、待望のオンライン学会誌Journal of Gender Medicine刊行2等、当学会のさらなる発展に向けた基盤を着々と築かれました。

 私の性差医学に関する略歴3を紹介させていただきますと、私は内分泌代謝内科学・女性医学を専門として性差医療に携わり、2003年から現在まで信州大学医学部の性差医学講義を担当、2007-19年は東京女子医科大学にて性差医療に従事し、2019-21年度に日本医療研究開発機構AMED女性の健康の包括的支援実用化研究事業で性差医療を実現するジェンダード・イノベーションアプリ「WaiSE(ワイズ)」の研究開発4,5を行い特許出願、2023年度経産省フェムテック等実証事業6を経て、今後の実用化を目指しております。最近のジェンダード・イノベーションと性差医学・医療への社会的関心の高まり、国内でも各界の女性リーダーが誕生といった追い風を受けて、この度の理事長への推挙と認識しております。お与えいただいた貴重な機会を大切に、学会全体としてこの上昇気流に乗って発展して行けたらと存じます。

 当学会は、ジェンダーという視点からさまざまな領域の最新の専門知識を一度に学べる日本で唯一無二の存在です。性差医学・医療に加え、最近はジェンダード・イノベーション(フェムテックやメンテック等)、ジェンダー統計、社会学や経済における性差からの視点、LGBTQ等、さまざまなトピックスを取り上げています。医療者・研究者、行政関係者等々はもちろんのこと、今後はジェンダード・イノベーションに携わる企業の方々等にもぜひ、当学会および年次学術集会にご参加いただけたらと存じます。

 また、当学会の特徴としてダイバーシティ&インクルージョンへの先進的な取組みも挙げられます。当学会の学会役員構成と学術集会大会長経験者の男女比は、全医学系学会の中でも最も理想的な黄金比を達成しております。こうした当学会の特徴を活かし、今後、学会内外の希望者を対象にした「エビデンス7に基づくキャリア形成セミナー」の企画なども、まだ腹案の段階ながら検討しているところです。15年程前に海外の性差医学会が開催した同様のリーダーシップセミナーに私が参加した頃は、日本ではリーダーの地位に就く女性はまだ稀少でした。日本社会も、今ようやくダイバーシティ&インクルージョンに向けて動き出して来たことを実感しております。

 性差医学・医療を学び「性差の視点」を得ることで、新しい視界が開け、新しい局面が見えてくる驚き、楽しさ、知的好奇心を感じることができます。こうした視点や気づきを多くの方々と共有し、「性差とライフステージに配慮した、一人ひとりに適した医療の実現」、「ジェンダード・イノベーションが導く、誰にも優しい未来」を目指して、皆様と共に歩んで参りましょう!

令和6年2月
日本性差医学・医療学会 理事長
片井みゆき (政策研究大学院大学)

【参考サイト】

  1. 日本性差医学・医療学会 沿革
  2. 日本性差医学・医療学会誌Journal of Gender Medicine
  3. 教員情報 政策研究大学院大学
  4. WaiSE (AMED発 性差医療アプリケーション/ ジェンダード・イノベーション / フェムテック)
  5. AMED 2021-22年度成果集 p22
  6. 経産省フェムテック等実証事業2023年度
  7. 女性医師としての生き方−医師としてのキャリアと人生設計を模索して